景表法 読了 12 分

自主規制とカルテル — 業界の取り決めを分ける 4つの境目

2022年度、公正取引委員会がカルテルに命じた課徴金は総額 1,019億 8,000万円 ── 1977年以降の過去最高だった。同じ時期、景表法に基づく公正競争規約は 103本が合法に運用されている。

両方とも「業界が自分で取り決めた」ルールだが、片や 707億円の制裁、片や独禁法の適用除外で守られる。何がこの 2つを分けるのか。1947年の独禁法から 2023年の電力カルテルまで、業界自主規制とカルテルの境目を辿る。

目次 (10 章)
  1. 1947年、独禁法の起点
  2. 1,019億円、2022年度
  3. 1962年、景表法の発明
  4. 1995年、事業者団体ガイドライン
  5. 大阪バス協会の最低料金
  6. JARO、1974年
  7. 4つの境目
  8. 中立な道具
  9. FAQ
  10. 参考文献

2023年 3月 30日、中国電力に対して 707億円 の課徴金納付命令が出された。1事業者あたりの金額として、課徴金制度が始まった 1977年以降、過去最高である。

罪名は独占禁止法違反。中部電力、九州電力と相互に営業エリアを侵食しない取り決めをしていた、というのが公正取引委員会の認定だった。同年度 (2022年度) の課徴金総額は 1,019億 8,000万円。これも 1977年以降の過去最高を更新した。

ほぼ同じ時期、景表法に基づく 公正競争規約は 103本 が合法に運用されている。

各規約は業界団体が自主的に決めた「これ以下の景品はやらない」「この表現は使わない」というルールである。中国電力の事案と同じく 業界が自分で取り決めた ものだが、こちらは独占禁止法の適用除外で保護されている。

なぜ片や 707億円の制裁、片や法律上の保護なのか。境目はどこにあるのか。

これは GuidelineChecker の編集部が書く、コラムの 6本目である。これまでは景表法を「事件と歴史」で辿った。今回は同じ景表法と独禁法の関係を「構造」で読み解く。


1947年、独禁法の起点

独占禁止法の正式名称は 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律。1947年 4月 14日、昭和 22年法律第 54号として制定された。当時は GHQ 統治下、戦後民主化政策の一環として米国シャーマン法 (1890年) を範に取って導入された。

法律の目的は明確である。競争を制限する事業者の行為を禁じる。具体的な禁止行為は 3つに大別される。

第一に、私的独占 (法 3条前段)。第二に、不当な取引制限 (法 3条後段) ── ここに価格カルテルや入札談合が含まれる。第三に、不公正な取引方法 (法 19条)。

事業者団体については別途、法 8条で 5つの禁止行為が列挙されている。一定の取引分野での競争の実質的制限、国際的協定、事業者数の制限、構成事業者の機能・活動の不当な制限、不公正な取引方法の実施 ── これらが団体としての行為主体に対する規制となる。

独禁法はここから 78年動いてきた。途中の改正で課徴金制度 (1977年導入)、確約制度 (2018年)、リニエンシー (課徴金減免、2006年) などが加わったが、カルテル禁止という骨格は変わっていない


1,019億円、2022年度

最近の摘発を年表に並べると、独禁法の運用がいかに大きな金額を動かし、業界規模も多様であるかが見える。

年月事案金額
2009年 7月岡山市の市立中学校の修学旅行をめぐり、旅行会社 3社が貸切バス代・宿泊費・企画料金・添乗費用の下限と率を取り決め排除措置命令
2014年 6月段ボール製品の価格カルテルで 61社総額 132億円の課徴金
2020年 6月山形県警察の制服入札談合で 5社中 3社に排除措置命令、1社に課徴金
2023年 3月電力カルテル ── 中国電力 / 中部電力グループ / 九州電力 (関西電力はリニエンシー申請で課徴金免除)中国電力 707億円、中部電力 275億円、九州電力 27億円
2024年 11月製缶メーカー 3社総額 257億円
2025年 11月長野県の石油組合支部でガソリン価格カルテル、加盟 17業者課徴金 1億 1,600万円

入札談合から街の組合まで、対象は広い。ただし共通点が 1つある ── 取り決めた相手が競争者で、取り決めた中身が価格・数量・取引先であること。


1962年、景表法の発明

一方、業界が集まって取り決めても合法な世界もある。それを発明したのが 1962年制定の景品表示法、特に第 36条である。

法 36条は、業界団体が表示や景品類のルールを自主的に設定できると定める。これが公正競争規約と呼ばれる仕組みで、認定済みの規約は 2024年 7月時点で 103本、運用団体は 79団体に達する。1963年の不動産表示規約が第一号で、その後 60年で食品から金融まで広がった。

認定の条件は 4つある (法 36条 2項)。

この 4関門を通った規約だけが、独占禁止法の 適用除外 という保護を受ける。

つまり景表法 36条は、本来なら独禁法違反になりかねない「業界の申し合わせ」を、4要件と公的認定でくぐらせることで合法化する装置である。世界的にも珍しい設計だが、これがあるおかげで業界が表示や景品の細則を自主的に書ける。

詳細は前回の記事に書いた。今回の焦点はその先 ── 認定なしで業界が同じことをやったらどうなるか である。


1995年、事業者団体ガイドライン

公正取引委員会は 1979年 8月に「事業者団体活動指針」を初めて公表し、1995年 10月 30日に 「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」 として全面改定した (2006年 1月にも改正)。

改定の理由は明快だった。当時の公取委はこう書いている。

独占禁止法違反事件の 3分の 1以上は事業者団体によるものである

業界団体が起こす独禁法違反 ── つまり「自主規制」を装ったカルテル ── が、摘発全体の 3割を超えていた。この実態を踏まえて、何が違反になり何がならないかを類型化したのが 1995年指針である。

指針が示す違反類型を要約すると、次のとおりになる。

事業者団体が 価格、数量、設備、取引先、販売地域 を取り決めることはほぼ自動的に違反となる。これは取り決めの形式 (協定書か内規か慣行か) を問わない。

品質・規格・技術基準 の取り決めは、それ自体は適法でありうる。ただし基準を口実に新製品開発を阻止したり、構成員に基準遵守を 強制 したり、非加入の事業者を 排除 したりすれば違反になる。

自主認証・認定 も同様である。認証を受けないと事業活動が困難になる状況で、認証の利用を正当な理由なく制限すれば違反となる。

公取委は指針でこう明文化している。

自主規制等の利用・遵守については、構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであって、事業者団体が自主規制等の利用・遵守を構成事業者に強制することは、一般的には独占禁止法上問題となるおそれがある

「強制した瞬間にカルテルに転化する」 ── これが指針の核心である。


大阪バス協会の最低料金

具体例として、大阪バス協会の事件が分かりやすい。

協会は会員のバス事業者向けに「貸切バスの最低料金」を取り決めていた。表向きは「安売り競争の防止と安全運行の確保」、つまり業界自主規制の体裁である。

しかし公正取引委員会の調査が入り、結果として協会は 独占禁止法違反の疑いのある協定・申し合わせのすべてを破棄する旨の決議 を行うに至った。

理由は単純で、最低料金の取り決めは「価格」に関する事業者団体の合意であり、法 8条 1号 (一定の取引分野における競争の実質的制限) に該当しうるからである。

仮にこの取り決めが「安全運行確保のために必要な経費水準を業界として明示する」という品質基準だったとしても、価格そのものを縛れば違反になる。何のためか ではなく、何を取り決めたか が問われる。


JARO、1974年

業界自主規制が合法に機能している例も多い。

最大のものが JARO (日本広告審査機構) である。1974年 8月設立。広告主・新聞社・出版社・放送会社・広告会社などが集まって、広告に関する消費者からの苦情を審査する民間機関として始まった。米国の BBB (Better Business Bureau) が 1912年に発足したのを範に取っている。

JARO は加盟企業に対しても、非加盟企業に対しても、法的強制力を持たない。審査の結果として「広告の改善を要望する」までで、従わない企業を業界から排除する仕組みもない。各社は JARO の判断を尊重するが、最終的には自社の判断で行動する。

この「強制力のなさ」こそが、JARO がカルテルに転化しない理由である。公取委の指針に照らせば、「自主規制の利用・遵守は構成事業者の任意の判断に委ねられる」状態が保たれているから問題ない。

公正競争規約 (法 36条認定済み) が「強制力 + 法的保護」の組み合わせなら、JARO は「強制力なし + 法的保護なし」の組み合わせである。どちらも合法に成立する。両極の中間 ── 強制力ありで法的保護なし が、カルテルの典型形になる。


4つの境目

ここまでの事例を構造化すると、業界の取り決めが「自主規制」と「カルテル」に分かれる境目は、ほぼ次の 4つに集約される。

第一に、対象。価格・数量・市場分割を取り決めれば、ほぼ自動的にカルテルになる。品質・安全・表示の基準なら自主規制でありうる。中国電力の事案 (営業エリアの相互不可侵 = 市場分割)、段ボール事案 (価格)、修学旅行事案 (価格・取引条件) はいずれも「対象」で違反が確定した。

第二に、効果。競争を質的に高める (粗悪品の排除、表示の信頼性向上) なら自主規制、競争を量的に減らす (価格固定、出稿量制限) ならカルテルである。「目的」は自己申告できるが、「効果」は市場で観察される。だから実務的には効果が見られる。

第三に、参加と離脱の自由。開放的で誰でも入れて誰でも抜けられるなら自主規制、加入拒否や脱退ペナルティがあればカルテル的になる。景表法 36条 2項の 4号 「公正競争規約に参加し、又は公正競争規約から脱退することを不当に制限しないこと」 はこの軸を法律として明文化したものである。

第四に、公的認定。景表法 36条のような認定制度を経た規約は、独禁法の 適用除外 という法的保護を受ける。同じ内容でも認定なしでやれば独禁法違反のリスクがある。事業者団体ガイドラインの厳しさは、この「認定ルートを通っていない自主規制」に向けられている。

103本の公正競争規約は、この 4つすべてをクリアしている。中国電力の 707億円は、第一の「対象」(市場分割) で線を超えた。大阪バス協会の最低料金は、第一の「対象」(価格) で線を超えていた。


中立な道具

業界の取り決め自体は、中立な道具である。同じ「業界で集まって決める」という行為が、消費者を守る方向にも、競争を殺す方向にも使える。

景表法 36条が 1962年に発明したのは、この道具を消費者保護に振り向けるためのルートだった。4要件と認定手続きという関門を通せば、独禁法の傘の外で堂々と使える。

事業者団体ガイドラインが 1995年に書き直したのは、この道具を競争抑制に振り向ける動きへの牽制だった。独禁法違反の 3分の 1が事業者団体だった現実を、類型化して警告した。

JARO が 1974年に始めたのは、この道具を強制力を持たずに使う第三の道だった。法的拘束力を持たない自主規制も、消費者からの苦情処理と業界への要望という形で機能する。

2023年に中国電力が 707億円を命じられたとき、それは「業界の取り決めが許されない」という判決ではない。「取り決めの中身が価格・市場分割だった」という事実に対する罰 である。同じ業界が同じ会議室で「災害時の電力融通基準」を取り決めれば、それは自主規制として歓迎される。

線は、業界がどこに引くかで決まる。


FAQ

自主規制とカルテルはどう違いますか?

業界の取り決めという形は同じです。違いは取り決めの中身です。価格・数量・市場分割・取引先を取り決めればほぼ自動的にカルテル (独占禁止法違反) になり、品質・安全・表示の基準なら自主規制でありうる。さらに、参加・脱退が自由か、構成員に強制していないか、公的認定を受けているか、で線が動きます。

公正競争規約はなぜ独占禁止法に違反しないのですか?

景品表示法 第 36条が認定要件 (4要件) を満たした規約を 独占禁止法の適用除外 にしているためです。同じ業界の集まりで「これ以下の景品はやらない」と決めても、認定なしなら独禁法違反のリスクがあります。

JARO はカルテルにならないのですか?

JARO は加盟企業にも非加盟企業にも法的強制力を持たないためです。消費者からの苦情を審査して広告の改善を要望するまでで、従わない企業を業界から排除する仕組みがありません。公正取引委員会の事業者団体ガイドラインも「自主規制の利用・遵守は構成事業者の任意の判断に委ねられるべき」と明示しています。

過去最大のカルテル課徴金はいくらですか?

1事業者あたりの最高額は中国電力に対する 707億円 (2023年 3月命令)。年度別の総額では 2022年度の 1,019億 8,000万円が課徴金制度導入 (1977年) 以降の最高記録です。同年度は中国電力に加えて中部電力グループ 275億円、九州電力 27億円の電力カルテル課徴金が集中したことが大きく寄与しました。

事業者団体ガイドラインはなぜ作られたのですか?

1979年に旧指針が公表された後、1995年に全面改定されました。改定理由として公正取引委員会は 「独占禁止法違反事件の 3分の 1以上は事業者団体によるもの」 という実態を挙げています。

価格・数量の取り決め、自主規制の構成員への強制、非加入者の排除など、違反になりうる活動類型を明示することで違反の未然防止を狙いました。2006年にも改正されています。