景表法 読了 12 分

ブレインハーツ、2018年 — アフィリエイトサイトの表示が景表法と出会った日

2018年 6月 15日、消費者庁は株式会社ブレインハーツに対する措置命令と課徴金 2,229万円の納付命令を出した。対象は 5商品 ── グリーンシェイパー、アストロンα、スリムイヴ、恋白美スキンソープ、Smart Leg。「7日間飲むと 1ヶ月体重が減少し続ける」「洗うだけで美肌を生成」など根拠のない効能表示と、販売実績のない通常価格による二重価格表示。

ただし、業界が注視した理由は別にあった。ブレインハーツは広告代理店を通じてアフィリエイターに自社サイトを提示し、その内容を踏まえた口コミ ・ ブログ記事を書かせていた。消費者庁はこの表示も処分対象に含めた。アフィリエイトサイトの表示も景表法の規制対象であることが、消費者庁の措置命令文書で初めて明示された事案だった。

目次 (10 章)
  1. 5商品とその表示
  2. 広告主 / ASP / アフィリエイターの三者構造
  3. ブレインハーツが取った構造
  4. 措置命令で初めて書かれたこと
  5. ペニオクから 6年、未完成だった半分
  6. 検討会、報告書、指針改正
  7. 残された半分は、5年後にやってくる
  8. FAQ
  9. 関連プリセット
  10. 参考文献

2018年 6月 15日、消費者庁から発表された 1枚のプレスリリースが、アフィリエイト広告業界に揺さぶりをかけた。

株式会社ブレインハーツに対する措置命令 + 課徴金 2,229万円。対象商品は 5つ。

違反表示の中身は分かりやすかった。「7日間飲むと 1ヶ月体重が減少し続ける」「洗うだけで美肌を生成」── 効果に合理的根拠なし (景表法 5条 1号 優良誤認)。さらに、販売実績のない参考価格を「通常価格」と並べた二重価格表示 (5条 2号 有利誤認)。健康食品 ・ 化粧品系の通販事業者ではよくある違反パターンだった。

ただし、この事案を業界が注視した理由は別にあった。

ブレインハーツは、これらの違反表示を 自社サイト で行っていただけではない。広告代理店を通じて アフィリエイトサイトの運営者 に自社ウェブサイトを提示し、その内容を踏まえた口コミ ・ ブログ記事を作成させ、自社サイトへのハイパーリンクと共にアフィリエイトサイトに掲載させていた。

消費者庁の措置命令は、その アフィリエイトサイトの表示も処分対象 に含めた。「アフィリエイトサイト上の表記も景品表示法の規制対象である」 ことが、消費者庁の措置命令文書で 初めて明示された 事案だった。

これは GuidelineChecker の編集部が書く、コラムの 13本目である。9本目 ペニーオークション、2012年 で、米 FTC が 2009年改訂で 14年先行した「広告主と表示者を分離した広告の責任」論を、日本のステマ規制が 11年沈黙していた状況を辿った。今回はその沈黙期間の途中で消費者庁が打った一手 ── アフィリエイト広告も「広告主の表示」として景表法で取れることを示した最初の事案を辿る。


5商品とその表示

具体的な違反表示を並べると、消費者誘引の図式が見えてくる。

グリーンシェイパー (食品): 「7日間飲むと 1ヶ月体重が減少し続ける」「飲むだけで内臓脂肪が燃焼」など、摂取するだけで著しい痩身効果が得られるかのような表示。合理的な根拠資料はなかった。課徴金 916万円

スリムイヴ (食品): 同じく痩身効果を強調した表示。課徴金 193万円

恋白美スキンソープ (石けん): 「洗うだけで美肌を生成」「シミ ・ そばかすが消える」のような美白 ・ シミ消去効果を訴求。課徴金 563万円

Smart Leg (下着): 「履くだけで脚やせ」のような着用しただけで物理的な痩身効果が得られる表示。課徴金 557万円

アストロンα (食品): 同種の効能訴求。措置命令対象だが、課徴金対象期間の売上が 150万円未満不課徴の閾値 に達しなかったため課徴金は課されず。

合計課徴金 2,229万円。中小通販規模での景表法事案としては大きく、業界の警戒を引いた。


広告主 / ASP / アフィリエイターの三者構造

アフィリエイト広告の仕組みを整理しておく必要がある。

広告主: 商品を売りたい事業者 (= ブレインハーツ)。 ASP (アフィリエイト ・ サービス ・ プロバイダ): 広告主とアフィリエイターを仲介する事業者 (A8.net、バリューコマース 等)。 アフィリエイター: 自分のブログ ・ ウェブサイト ・ SNS で広告主の商品を紹介し、購買成立に応じた成果報酬を得る個人 ・ 法人。

成果報酬の構造は、紹介経由で売れた金額の一定率 (5〜30%程度が多い) がアフィリエイターに支払われる。売れなければ報酬ゼロ。だからアフィリエイターは 売れる表現 を強く志向する。「飲むだけで痩せる」「使うだけでシミが消える」── 消費者の購買動機を最大化する誇大表現に流れやすい構造的インセンティブがある。

問題はここだった。この表示は誰の責任なのか

景表法の対象は「事業者の表示」(5条) である。アフィリエイターが書いた文言を「広告主の表示」とみなせるかどうかが、長年の論点だった。


ブレインハーツが取った構造

消費者庁が認定した事実関係はこうだった。

ブレインハーツは、自社ウェブサイトにおいて対象表示を行っていたほか、本件商品については、広告代理店を通じて、アフィリエイトサイトの運営者に対し、自社ウェブサイトを提示するなどして、当該自社ウェブサイトの記載内容を踏まえた口コミ、ブログ記事等を作成させ、当該自社ウェブサイトへのハイパーリンクと共に当該アフィリエイトサイトに掲載させていた。

ポイントは 3つに分解できる。

この事実関係の下では、アフィリエイトサイトの表示は実質的に 広告主が決定した表示 と評価できる。消費者庁はそう判断した。


措置命令で初めて書かれたこと

ブレインハーツ事案の画期は、措置命令の 文面そのもの にあった。

それまでも、アフィリエイトサイトに違反表示があった場合、消費者庁が広告主に措置命令を出すケースは事実上存在した。しかし、措置命令文書の中で 「アフィリエイトサイト上の表記」 を処分対象として明文化した事案はなかった。多くは自社サイト表示のみを処分対象とし、アフィリエイト表示は 影響評価の参考 どまりだった。

ブレインハーツの措置命令で、消費者庁は明確に書いた。アフィリエイトサイトの表示も対象であると。これは業界に 「アフィリエイトサイトに任せておけば責任は逃げられる」 という運用知恵が通用しないことを、文書として突きつける効果を持った。

日本アフィリエイト協議会 (JAO) は措置命令の翌週、加盟 ASP に対する注意喚起と該当ブログ記事の削除要請を行った。業界の自主規制も並行して動き出した。


ペニオクから 6年、未完成だった半分

時計を 6年戻すと、別の角度からこの事案の位置が見えてくる。

2012年、ペニーオークション事件で 8人の芸能人ブログ に同じ文面のステマ宣伝が並んだ (詳細: ペニーオークション、2012年)。広告主 (ワールドオークション) が松金ようこを介して 8人に発注し、文面まで指定していた。

しかし当時、景表法ではステマを直接取締れなかった。米 FTC は 2009年改訂の Endorsement Guides で 「広告主と推薦者の経済的関係を消費者に開示しないこと自体が欺瞞」 と整理していた (詳細: FTC、1914年)。

日本にこの規律はなく、ワールドオークション運営者は 詐欺罪 (景表法ではない刑法) で逮捕された。

ペニオクから 6年、ブレインハーツ事案で消費者庁は 第三者の表示を装った広告に、景表法を当てる新しい筋道 を 1つ作った。アフィリエイト広告であれば、広告主が表示内容の決定に関与した事実関係を示せれば、「広告主の表示」として景表法で取れる

ただしこれは 半分 だった。ペニオク型の「広告であることを開示せず、消費者に第三者の感想と誤認させる」行為そのものを禁じる規定は、依然として日本の景表法にはなかった。ブレインハーツの認定根拠は「広告主が表示内容を決定した」ことであって、「広告であることを開示しなかった」ことではない。

ステマの本丸 ── 「広告であることを隠す行為」自体への規制 ── は、まだ 5年先のステマ規制 (2023年 10月 1日施行) を待つ必要があった。


検討会、報告書、指針改正

ブレインハーツ事案以後、アフィリエイト広告の景表法摘発は続いた。

2019年: 株式会社T.S.コーポレーション の育毛剤「BUBKA ZERO」アフィリエイト広告で「医療関係者も勧める "90%がフサフサになった育毛剤"」と表示。広告主が広告内の写真をアフィリエイターに提供し、表示内容を決定していた事実関係が認定された。

2020-2021年: 健康食品 ・ 化粧品系のアフィリエイト広告摘発が増加。

この積み重ねを受けて、消費者庁は 2021年 6月 10日「アフィリエイト広告等に関する検討会」 を発足させた。日本アフィリエイト協議会 (JAO) 代表理事の笠井北斗ら有識者が委員に入り、全 6回 の議論を経て、2022年 2月 15日 に報告書を公表した。

報告書の結論は次の通りだった。

そして 2022年 6月 29日、消費者庁は 「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(2014年 11月 14日 内閣府告示第276号) を改正 した。

アフィリエイト広告も指針の対象であることが明文化され、広告主が講ずべき管理体制 (アフィリエイターへの指示、表示内容の把握、不適切表示の是正措置等) が指針として整理された。

ブレインハーツ事案で示された 「アフィリエイト広告は広告主の表示」 という考え方が、措置命令の個別判断から、業界全体への制度上の指針として確立された瞬間だった。


残された半分は、5年後にやってくる

ブレインハーツが取れた半分 ── 「アフィリエイト広告も景表法対象」── が制度化されたあと、もう半分 ── 「広告であることを隠す行為自体への規制」── がやってくる。

2023年 3月 28日、消費者庁は 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」 を景表法 5条 3号の指定告示として制定した。2023年 10月 1日施行。日本のステマ規制である。

ペニーオークション事件 (2012年) から 11年、ブレインハーツ事案 (2018年) から 5年、アフィリエイト広告検討会報告書 (2022年) から 1年半。第三者の表示を装った広告に、景表法の射程が 両側から 届いた瞬間だった。

ブレインハーツ事案は、その途上にあった重要な踏み石だった。アフィリエイトサイトの表示も景表法と書かれた日は、業界に「広告主が管理しないと逃げられない時代」を告げ、4年後の検討会報告書と 5年後のステマ規制への助走になった。

法律は、いつも勝者が出た翌朝に作られる。ブレインハーツの事案では、勝者は 「アフィリエイターに任せて責任を回避する広告主」 であり、被害者は 「ブログの口コミを信じて 7日間飲み続けた消費者」 だった。翌朝の景表法は、その勝者の逃げ道を 2,229万円 で塞いだ。


FAQ

ブレインハーツはどのような景表法違反を犯しましたか?

2018年 6月 15日、消費者庁は株式会社ブレインハーツの 5商品 (グリーンシェイパー、アストロンα、スリムイヴ、恋白美スキンソープ、Smart Leg) について、効果に合理的根拠のない優良誤認表示と、販売実績のない通常価格との比較による有利誤認表示を理由として、措置命令と課徴金 2,229万円 の納付命令を出しました。

違反類型は 景表法 5条 1号 (優良誤認) + 5条 2号 (有利誤認) です。

ブレインハーツ事案の何が業界的に画期だったのですか?

「アフィリエイトサイト上の表記も景品表示法の規制対象である」 ことが、消費者庁の措置命令文書で 初めて明示 された事案でした。

それまでも広告主に措置命令が出るケースはありましたが、措置命令文書中で アフィリエイトサイトの表示を処分対象として明文化 した事案は無く、業界に「アフィリエイトに任せても責任は逃げられない」という現実を文書として突きつけた瞬間でした。

アフィリエイトサイトの表示が「広告主の表示」と認定された根拠は?

ブレインハーツが (1) 自社ウェブサイトで違反表示を行い、(2) 広告代理店を通じてアフィリエイターに自社サイトを提示し、(3) 自社サイトの記載内容を踏まえた口コミ ・ ブログ記事を作成させ、(4) 自社サイトへのハイパーリンクと共にアフィリエイトサイトに掲載させていた、という事実関係が認定されました。

アフィリエイトサイトの表示は実質的に 広告主が決定した表示 と評価できる構造でした。

この事案の後、アフィリエイト広告の法制度はどう変わりましたか?

2021年 6月 10日、消費者庁が 「アフィリエイト広告等に関する検討会」 を発足。全 6回の議論を経て、2022年 2月 15日 に報告書を公表し、「景表法改正は不要、アフィリエイト広告は広告主の表示として景表法対象」と整理しました。

さらに 2022年 6月 29日、「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」が改正され、アフィリエイト広告も指針の対象として明文化されました。ブレインハーツ事案の個別判断が、4年で業界全体の指針に格上げされた経緯です。

ブレインハーツ事案とステマ規制 (2023年) はどう関係しますか?

ブレインハーツは「広告主が表示内容を決定した」ことを根拠に景表法を当てた事案で、「広告であることを開示しなかった」こと自体を直接禁じたわけではありません。

後者を直接禁じる規律 = ステマ規制 (景表法 5条 3号 7項) は 2023年 10月 1日施行 で、ペニーオークション事件 (2012年) から 11年、ブレインハーツ事案から 5年を経て成立しました。両者は 「第三者の表示を装った広告」 への景表法の射程を、別の角度から拡張した一連の流れの中にあります。


関連プリセット

GuidelineChecker の 景表法ベース プリセットには、アフィリエイト広告 ・ ステマ規制 ・ 不実証広告規制を含む景表法 5条の主要な不当表示類型が網羅されています。

ステマ規制 プリセット (告示) は 2023年 10月 1日施行の景表法 5条 3号 7項 をカバーし、インフルエンサー ・ アフィリエイター活用業種で広告 ・ PR 表示の判別困難性を検出します。健康食品 ・ サプリ系の効能表示は 健康増進法 ・ 健康食品 プリセットも併用してチェックできます。