景表法 読了 12 分

動画見放題、2019年 — 留意点 8ヶ月後の試金石

2019年 2月 22日、消費者庁は株式会社TSUTAYA に課徴金 1億 1,753万円の納付命令を出した。「動画見放題」と表示されていた 3つのプラン ── 実際の見放題対象は配信動画の 12〜27%、新作 ・ 準新作は 1〜9%にすぎなかった。

打消し表示は記載されていた。ただし「動画見放題」の本文から離れた場所、本文より小さな文字、Q&A 形式でクリックしないと出てこない位置だった。2018年 6月 7日に消費者庁が公表した「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」が、8ヶ月後に大型事案で初めて適用された瞬間だった。

2019年 2月 22日、消費者庁から発表された 1枚のプレスリリースが、動画配信業界に衝撃を与えた。

株式会社TSUTAYA に対する課徴金納付命令 ── 合計 1億 1,753万円。違反表示は 「動画見放題」。実際の見放題対象は、TSUTAYA TV で配信する動画のうち 12〜27%程度。とりわけ消費者が期待する新作 ・ 準新作のリリースカテゴリは、1〜9%程度 にすぎなかった。

しかも TSUTAYA は、打消し表示を 書いていなかったわけではない。「動画見放題は一部の作品に限定される旨」の記載は、ウェブサイト上に存在した。

ただし、その表示は 「動画見放題」の広告から離れた箇所に、小さな文字で書かれていた。Q&A 形式で並んでおり、質問の見出しを クリックしないと回答 (= 打消し) 部分は表示されない 構造だった。

消費者庁は判定した。「強調表示と打消し表示の総体で消費者の認識を打ち消すものではない」

これは GuidelineChecker の編集部が書く、コラムの 14本目である。12本目 打消し表示、2017年 で、消費者庁が 4本の実態調査を経て 2018年 6月 7日に 「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」 を公表した経緯を辿った。今回はその留意点が 打消し表示の不適切配置を主理由とする最初の大型事案 として運用された TSUTAYA TV 課徴金を辿る。


12〜27%の「見放題」

TSUTAYA TV は、TSUTAYA が運営する 動画配信サブスクリプション である。月額料金を払えば、配信動画を自由に視聴できる ── 消費者がそう理解する商品だった。

問題になったプランは 3つ。

いずれの宣伝でも 「動画見放題」 が前面に強調されていた。背景には多数の動画パッケージ画像が並び、契約すれば「あれもこれも見られる」印象を作っていた。

しかし契約後、消費者は気付く。多くの作品は「個別課金」が必要 だった。実際に「見放題」として無料視聴できるのは、TSUTAYA TV で配信される全動画の 12〜27%程度。新作映画やドラマの最新エピソードといった、消費者が最も観たいカテゴリに至っては 1〜9%程度 しかなかった。

「見放題」という言葉は、消費者の頭の中で 「契約すれば全部見られる」 という印象を作る。実態はその 1/8 〜 1/4程度。これが 景表法 5条 1号 (優良誤認表示) に該当した。


打消し表示は、確かにあった

TSUTAYA は 「打消し表示」を完全に省略していたわけではない。サイト上の Q&A 形式のヘルプページには、「動画見放題は一部の作品に限定される旨」が記載されていた。

形式上は 書いた。それでも消費者庁は 「打消し表示が機能していない」 と判定した。理由は 3点ある。

1. 強調表示から離れた場所に置かれていた

「動画見放題」というキャッチコピーと、限定説明の Q&A は、ページ上の 別の場所 にあった。消費者が「動画見放題」の文字に視線を奪われたとき、打消しの記述まで視線が届かない。前回記事のアイトラッキング調査 (詳細: 打消し表示、2017年) で示された 「視線が止まらない位置」の問題 がそのまま争点になった。

2. 文字サイズが本文より小さかった

「動画見放題」は大きく、太く、目立つフォントで強調されていた。一方、Q&A の答えは小さい本文サイズで、ページの下方や別タブに収まる位置にあった。強調表示と打消し表示のサイズ非対称が、留意点の「強調表示の文字サイズに対して打消し表示が著しく小さくないこと」に違反した。

3. クリックしないと出てこない構造

Q&A 形式では、見出し (質問) を クリックして展開しないと回答 (= 打消し) が出てこない消費者の能動的操作がなければ表示されないものは、留意点が言う「一般消費者が認識できる程度」を満たさない。

消費者庁の認定は、これら 3点を総合して 「強調表示と打消し表示の総体で、消費者の認識を打ち消すものではない」 だった。形式上書いたかどうかではなく、消費者の認識に届くかどうかで判定する ── 留意点の運用方針が、TSUTAYA 事案で初めて公式に適用された。


課徴金は措置命令の続きだった

時計を 9ヶ月 戻す必要がある。

2018年 5月 30日、消費者庁は株式会社TSUTAYA に対して、措置命令を出していた。対象は 2つ。

いずれも「契約すれば動画が見放題」という印象を与えるが、実態はそうではなかった。違反類型は 5条 1号 (優良誤認) + 5条 2号 (有利誤認)。打消し表示の留意点はまだ存在しなかった (留意点公表は 8日後の 6月 7日)。

景表法の処分は 二段構え である ── 措置命令で違反の差止めを命じ、その後に違反期間の対象売上に基づく課徴金を算定する。2018年 5月の措置命令と 2019年 2月の課徴金は、別事案ではなく 同じ違反に対する 1セットの処分 だった。

ただし TSUTAYA はすぐに表示を改めなかった。表示が修正されたのは 2018年 6月 18日 ── 措置命令から 19日後、留意点公表からも 11日後 である。この遅れた期間の売上も、最後まで課徴金の算定対象に積まれた。


8ヶ月、留意点の試運転期間

ここまでの流れを時系列に並べると、この事案の位置が見えてくる。

日付出来事
2018年 5月 30日消費者庁、TSUTAYA に措置命令 (TSUTAYA TV 動画見放題 / TSUTAYA 光)
2018年 6月 7日消費者庁「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」公表
2018年 6月 18日TSUTAYA、違反表示を改めた日 (課徴金算定の終期)
2019年 2月 22日TSUTAYA に対する課徴金 1億 1,753万円の納付命令

留意点公表から TSUTAYA への課徴金まで 8ヶ月。消費者庁にとって新ルール最初の本格運用、業界にとって 「留意点が本当に運用される」 という現実を見せられた瞬間だった。

それまで打消し表示は、業界の中で 「書いておけば形式上は責任を果たしたことになる」 という運用知恵があった。文字サイズの小ささ、配置の遠さ、開示の手間 ── これらは「審査機関に見せるための儀式」として浸透していた。

留意点はそれを否定する文書だった。ただし留意点は法令ではなく、運用基準にすぎない。「本当にこの基準で摘発されるのか」「いざとなれば形式遵守で逃げられるのではないか」 ── 業界には半信半疑の空気が残っていた。

TSUTAYA 事案の 1億 1,753万円 は、その半信半疑への回答だった。


二本の歯車が噛み合った

景表法には、2014年以降に 2つの強化が並行して走っていた。

1つ目課徴金制度 (2014年改正、2016年 4月 1日施行) ── 違反対象商品の売上 × 3%を国庫に納めさせる制裁手段 (詳細: 課徴金、2014年)。1962年の景表法制定から 54年目に景表法が初めて獲得した制裁の牙だった。

2つ目打消し表示の判定基準 (2017年からの実態調査 → 2018年 6月 7日 留意点) ── 強調表示と打消し表示の総体で誤認させたかどうかで判定する運用ルール (詳細: 打消し表示、2017年)。

この 2つは別の改革だったが、TSUTAYA 事案で 同時に噛み合った

両方が連動して初めて、「打消し表示を不十分なまま使う事業者は経済的に割に合わなくなる」 構造が完成した。

同じ枠組みは以降の摘発にも引き継がれた。「○○放題」「全額返金」「効果には個人差があります」── 強調表示と打消し表示を組み合わせた広告は、その後も 総体としての印象 で優良誤認 ・ 有利誤認を判定される。形式上どこかに書いた だけでは責任を免れない、という運用が定着した。1980年に米国 FTC が "clearly and conspicuously" を打ち立ててから 39年後 (詳細: FTC、1914年)、日本の景表法も同じ判定枠組みに到達していた。


Q&A の中で眠っていた

TSUTAYA の打消し表示は、消えていたわけではない。ヘルプページの Q&A の中、質問の見出しを 1度クリックすれば、ちゃんと表示された。

しかし消費者の視線は、契約画面の「動画見放題」のところで止まる。Q&A まで到達しない。到達しても、質問を 1つずつ開く読者はわずかで、開いたとしても本文と離れた小さな文字は、強調表示の印象を上書きできない。

それでも 業界の常識では、これで 「書いた」 ことになっていた。打消し表示はサイト内のどこかに存在した、検索すれば見つかる、リンクから辿れる ── 形式遵守の儀式は、消費者の認識に届かなくても 「責任を果たした」 形を作れた。

TSUTAYA 事案が壊したのは、その儀式だった。書いた場所、書いた大きさ、表示までの操作回数 ── そのどれもが「消費者の認識に届くか」という機能基準で判定される。Q&A の中に眠らせておくのは、書かなかったのと同じ。

法律は、いつも勝者が出た翌朝に作られる。TSUTAYA の事案では、勝者は 「打消し表示で形式遵守を装う事業者」 であり、被害者は 「『見放題』を信じて契約した消費者」 だった。翌朝の景表法は、その勝者の逃げ道を 1億 1,753万円 で塞いだ。


FAQ

TSUTAYA はどのような景表法違反を犯しましたか?

2019年 2月 22日、消費者庁は株式会社TSUTAYA の 3つのプラン (TSUTAYA TV 動画見放題プラン、動画見放題&定額レンタル8、TSUTAYAプレミアム) について、「動画見放題」と表示しながら実際の見放題対象が配信動画の 12〜27%程度 (新作 ・ 準新作は 1〜9%程度) であったとして、課徴金 1億 1,753万円 の納付命令を出しました (前提となる措置命令は 2018年 5月 30日に発令済み)。違反類型は 景表法 5条 1号 (優良誤認表示) です。

打消し表示はなぜ無効と判定されたのですか?

打消し表示は「動画見放題は一部の作品に限定される旨」として記載されていましたが、以下の 3点で 「強調表示と打消し表示の総体で消費者の認識を打ち消すものではない」 と消費者庁が判定しました。(1) 「動画見放題」の広告表示から 離れた箇所 に配置、(2) 本文より 小さな文字 で記載、(3) Q&A 形式で クリックして展開しないと回答が表示されない 構造。これらは 2018年 6月 7日公表の 「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」 に照らして不十分とされました。

2018年 5月 30日にも TSUTAYA は措置命令を受けています。これと 2019年の課徴金は別事案ですか?

別事案ではなく、同じ違反に対する 1セットの処分 です。景表法の処分は二段構えで、まず措置命令で違反の差止めを命じ、その後に違反期間の対象売上に基づく課徴金を算定します。2018年 5月の措置命令と 2019年 2月の課徴金は、「動画見放題」と訴求した同じ TSUTAYA の表示に対する一連の処分です。TSUTAYA は措置命令を受けても 2018年 6月 18日まで 同じ表示を続けており、この期間の売上も課徴金算定対象 (2016年 4月 1日 〜 2018年 6月 18日、約 2年 2ヶ月) に含まれました。

TSUTAYA 事案は打消し表示の留意点が初めて適用された事案ですか?

留意点 (2018年 6月 7日公表) が公式に運用された 最初の本格的な事案 が TSUTAYA 事案 (2019年 2月 22日) とされています。それ以前にも打消し表示を理由とする摘発はありましたが、留意点という運用基準に明示的に依拠して「強調表示と打消し表示の総体で消費者の認識を判定する」枠組みが大型事案で確立されたのは TSUTAYA 事案が初です。以後、この「総体で判定する」考え方は景表法の不当表示認定の標準的な枠組みとして定着しました。

課徴金 1億 1,753万円はどう算定されましたか?

景表法の課徴金は 違反対象商品の売上 × 3% で算定されます (2016年 4月 1日施行)。TSUTAYA の場合、課徴金対象期間 (2016年 4月 1日 〜 2018年 6月 18日、約 2年 2ヶ月) における 3プランの対象売上に対して 3%を乗じた結果、「TSUTAYA TV 動画見放題プラン」2,000万円、「動画見放題&定額レンタル8」8,502万円、「TSUTAYAプレミアム」1,251万円、合計 1億 1,753万円となりました (詳細: 課徴金、2014年)。


関連プリセット

GuidelineChecker の 景表法ベース プリセットには、本記事で扱った「打消し表示に関する実態調査報告書」(2017年 7月) および「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」(2018年 6月 7日) が、不当表示認定の根拠ガイドラインとして収録されています。NG/OK 例にも「※ただし条件あり (極小 ・ 薄色 ・ 別画面)」「効果には個人差があります (5px グレー文字)」など、TSUTAYA 事案に通じる典型違反パターンが含まれています。