景表法 読了 10 分

景表法改正、2024年 — アメとムチを同時に入れた 62年目

2024年 10月 1日、改正景品表示法 (令和 5年法律第 29号) が施行された。3つの新しい仕組みが同時に入った ── 事業者が自主改善計画を出せば処分を回避できる「確約手続」(アメ)、措置命令を経ずに直接 100万円以下の罰金を科せる「直罰規定」(ムチ)、過去 10年以内に課徴金を受けた事業者の率を 3%から 4.5%に上げる「1.5倍加算」(再犯へのムチ)。

1962年のニセ牛缶事件で「やめさせる」法律として生まれ、2014年に「吐き出させる」課徴金を得た景表法は、62年目に「自主改善を促す」と「悪質には即罰する」を一度に手に入れた。現行制度の到達点を、条文と最初の適用事例で辿る。

2024年 10月 1日、改正景品表示法 (令和 5年法律第 29号) が施行された。

この改正は、性格の異なる 3つの仕組みを 同時に 景表法に入れた。

柔軟化 (確約) と厳罰化 (直罰 ・ 1.5倍) が、1本の改正法に同居している。

これは GuidelineChecker の編集部が書く、コラムの 16本目である。11本目 課徴金、2014年 で景表法が初めて制裁の牙 (課徴金) を獲得した経緯を辿った。今回はその 10年後、現行の景表法がどんな道具箱を持つに至ったか ── シリーズが追ってきた制度史の 現在地 を辿る。


1962年からの道具箱

景表法の執行手段が、62年でどう増えてきたかを並べると、この改正の位置が見える。

加わった道具性格
1962年排除命令 (現 措置命令)やめさせる
2014年改正課徴金 (売上 3%)吐き出させる
2024年改正確約手続自主改善を促す
2024年改正直罰規定即座に罰する
2024年改正課徴金 1.5倍加算再犯を重く罰する

1962年のニセ牛缶事件で景表法が生まれたとき、手段は 措置命令だけ だった (詳細: ニセ牛缶、1962年)。「やめなさい」と命じて終わり。違反で得た利益は手元に残った。

2014年改正で 課徴金 が入り、違反対象商品の売上 3%を国庫に納めさせる経済的制裁を獲得した (詳細: 課徴金、2014年)。「儲けたもん勝ち」の構造に歯が立った。

そして 2024年改正で、景表法は 方向の違う 3つの道具 を一度に手に入れた。


確約手続 ── 自主改善というアメ

3つのうち、最も性格が新しいのが 確約手続 である。

仕組みはこうだ。消費者庁が景表法違反の疑いで調査に入ったとき、対象事業者が 自主的な是正措置の計画 (確約計画) を作って申請する。消費者庁長官がその計画を認定すれば、その被疑行為について 措置命令も課徴金納付命令も出されない

認定の要件は 2つ。

重要なのは、確約計画の認定は「違反があった」という認定ではない こと。事業者は違反を認めることなく、是正に踏み出せる。行政と事業者が 争う代わりに早期に是正する 仕組みで、独占禁止法に 2018年に導入された確約手続を景表法にも移植したものである。

第一号: caname 株式会社

施行から約 5ヶ月後の 2025年 2月 26日、消費者庁は 確約手続の第一号認定事案 を公表した。

対象は caname 株式会社 ── パーソナルジム「片桐塾」を運営する事業者。違反被疑は、自社ウェブサイトで入会金割引の 「期限」を定めて表示 していたが、実際には期限を過ぎても体験当日に入会すれば割引を適用していた、という 有利誤認 だった。

これは TSUTAYA の課徴金 (詳細: 動画見放題、2019年) や アイコスの課徴金 (詳細: 課徴金、2014年) で見た「期間限定の常態化」と同型の論点である。違反類型としては争いが少なく、サービス単価が 2万 2,000円〜5万 5,000円と高く、顧客名簿を持っているため 返金措置を含む確約計画 が組みやすい事案だった。

確約手続が「比較的シンプルな有利誤認」から始まったことは、制度の慎重な滑り出しを示している。


直罰規定 ── 措置命令を待たないムチ

確約がアメなら、直罰規定 はムチである。

従来の景表法では、優良誤認 ・ 有利誤認に対して刑事罰を科すには 措置命令を経て、その命令に違反 する必要があった (命令違反罪: 2年以下の懲役または 300万円以下の罰金)。つまり「やめろ」と一度命じ、それでも続けた場合に初めて刑事罰だった。

2024年改正で新設された 直罰規定 は、この段階を飛ばす。優良誤認表示 ・ 有利誤認表示を行った事業者に対し、措置命令を経ずに直接 100万円以下の罰金 を科せるようになった。

狙いは、自らの表示が景表法に違反すると認識しながら、あえて違反する悪質な事業者 の抑止である。措置命令 → 是正 → 課徴金という時間のかかる行政手続を待たず、悪質性の高いケースに刑事罰で即応できる。

ただし直罰の対象は 故意がある悪質事案 が想定されており、通常の景表法違反がすぐ刑事罰になるわけではない。あくまで「分かっていてやった」層への切り札である。


課徴金 1.5倍加算 ── 再犯を重くする

3つ目は、課徴金制度の 再犯加重 である。

2016年施行の課徴金は、違反対象商品の売上に一律 3% を乗じる仕組みだった (詳細: 課徴金、2014年)。2024年改正は、ここに 再犯割増 を加えた。

過去 10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者 が再び違反した場合、課徴金率は 3%の 1.5倍 ── 4.5% になる。

一度課徴金を払ったのに、また同じことをする事業者には、より重い経済的制裁を科す。違反の 常習性 に着目した厳罰化である。

あわせて課徴金制度では、売上額を正確に把握できない場合でも、消費者庁が売上額を推計して課徴金を算定できる ようになった。従来は売上の立証が難しいと課徴金を課せないケースがあったが、推計を認めることで「証拠を隠せば逃げられる」抜け道を塞いだ。


その他の改正 ── 返金 ・ 国際化 ・ 消費者団体

3つの主要な仕組みのほかにも、実務に効く改正が入った。

返金措置の弾力化 ── 課徴金を減免する自主返金で、従来は金銭 (現金 ・ 振込) に限られていた返金手段に、第三者型前払式支払手段 (一定の電子マネー等) が認められた。返金のハードルを下げ、被害回復を促す方向の改正である。

国際化への対応 ── 海外事業者に対する 書類送達の規定 が整備された。越境 EC やデジタル広告で、海外に拠点を置く事業者への執行を実効化する。

適格消費者団体の開示要請 ── 適格消費者団体が、事業者に対して表示の 裏付けとなる資料の開示を要請できる 規定が導入された。行政だけでなく、消費者側からも不当表示を是正する経路を補強した。


なぜアメとムチを同時に入れたか

確約 (柔軟化) と直罰 ・ 1.5倍 (厳罰化) を 1本の法律に同居させた設計には、理由がある。

景表法違反には 2つの層 がある。

確約手続は前者に 「早く直せば処分しない」 出口を与え、行政コストも下げる。直罰と 1.5倍加算は後者に 「悪質なら即罰する ・ 再犯は重くする」 と圧力をかける。

軽い違反は柔軟に早期是正、重い違反は厳しく即応 ── 違反の悪質性に応じて執行を使い分ける、メリハリのある制度設計が 2024年改正の核心だった。


62年の到達点と、まだ残るもの

1962年から 2024年まで、62年。景表法は「やめさせる」法律として生まれ、「吐き出させる」課徴金を 52年目に得て (詳細: 課徴金、2014年)、62年目に「自主改善を促す」「即座に罰する」「再犯を重くする」を一度に手に入れた。

シリーズで辿ってきた事件 ── ニセ牛缶 (1962)、スカスカおせち (2011)、ペニーオークション (2012)、ステマ (2023) ── は、いずれも 新しい違反の形 が現れ、それに法律が後から追いついた歴史だった。2024年改正は、その積み重ねの上に立つ 現行制度の到達点 である。

それでも、残された論点はある。

ステマ規制は課徴金対象外のまま ── 2023年施行のステマ規制 (5条 3号告示) は、依然として課徴金の対象外で、措置命令と直罰 ・ 命令違反罰で運用される (詳細: ステマ規制、2023年)。

ダークパターン ── 解約を著しく困難にする UI、執拗な購入誘導といった「ダークパターン」は、EU では規制が進むが、日本では景表法上の明確な規律がまだない。

AI 生成広告 ・ 偽レビュー ── 米国 FTC は 2024年に AI 生成レビューを規則で禁じたが (詳細: FTC、1914年)、日本の対応はこれからである。

法律は、いつも勝者が出た翌朝に作られる。2024年改正で景表法は、これまでの「翌朝」を一通り制度化した。だが次の勝者 ── ダークパターンや AI 偽レビューで利益を上げる事業者 ── が現れたとき、また新しい翌朝がやってくる。62年の歴史は、その繰り返しだった。


FAQ

2024年の景表法改正はいつ施行されましたか?

2024年 10月 1日 に施行されました。改正法は「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律」(令和 5年法律第 29号) で、2023年 5月 17日に公布されています。主な内容は (1) 確約手続の導入、(2) 直罰規定の新設、(3) 課徴金制度の見直し (1.5倍加算 ・ 売上推計) の 3点です。

確約手続とは何ですか?

消費者庁の景表法違反調査に対し、事業者が 自主的な是正措置計画 (確約計画) を作成 ・ 申請 し、消費者庁長官が認定すれば、その被疑行為について 措置命令 ・ 課徴金納付命令が出されない 仕組みです。認定要件は「措置内容の十分性」と「実施の確実性」。認定は違反があったという認定ではなく、事業者は違反を認めずに是正に進めます。第一号認定は 2025年 2月 26日の caname 株式会社 (パーソナルジム「片桐塾」、入会金割引の有利誤認) でした。

直罰規定とは何ですか?

優良誤認表示 ・ 有利誤認表示を行った事業者に対し、措置命令を経ずに直接 100万円以下の罰金 を科せる規定です。従来は措置命令に違反して初めて刑事罰でしたが、改正により 自らの表示が違反と認識しながらあえて行う悪質な事業者 を直接処罰できるようになりました。通常の景表法違反がすぐ刑事罰になるわけではなく、故意性の高い悪質事案が対象です。

課徴金の 1.5倍加算とは?

過去 10年以内に課徴金納付命令を受けた事業者 が再び違反した場合、課徴金率が通常の 3%から 1.5倍の 4.5% になる制度です。違反の常習性に着目した再犯加重です。あわせて、売上額を正確に把握できない場合でも消費者庁が 売上額を推計して課徴金を算定 できるようになり、証拠隠しによる逃げ得を防ぐ改正も行われました。

ステマやダークパターンは 2024年改正で課徴金対象になりましたか?

いいえ。ステマ規制 (2023年施行、5条 3号告示) は引き続き課徴金の対象外 で、措置命令 ・ 直罰 ・ 命令違反罰で運用されます (詳細: ステマ規制、2023年)。ダークパターン (解約困難 UI 等) は、EU では規制が進んでいますが、日本の景表法では明確な規律がまだ設けられていません。これらは現行制度の残された論点です。


関連プリセット

GuidelineChecker の 景表法ベース プリセットは、2024年 10月施行の改正内容 (確約手続 ・ 直罰規定 ・ 課徴金 1.5倍加算) を反映しています。優良誤認 ・ 有利誤認 ・ No.1表示 ・ 打消し表示 ・ 二重価格など全業種共通の不当表示類型を網羅し、措置命令 ・ 課徴金 ・ 確約手続のいずれの執行ルートでも問題になりうる表示を事前にチェックできます。ステマ告示は ステマ規制 プリセットで、健康食品の効能表示は 健康増進法 ・ 健康食品 プリセットで併せて点検できます。