景表法 読了 7 分

16億5,594万円 ── 課徴金の10年、牙は巨大化した(2016–2025)

2024年5月28日、消費者庁は中国電力に16億5,594万円の課徴金を命じた。景品表示法の課徴金として、過去最高額。電気料金プランを「安い」と見せた表示が、燃料費調整で必ずしも安くなかった ── 派手な嘘のない「比べ方」の不当表示に、16億円の値札がついた。

2016年に景表法へ初めて生えた「3%の牙」は、10年でどう使われたのか。件数は減り、金額は跳ねた。牙は、姿を変えていた。

2024年5月28日、消費者庁が中国電力に命じた課徴金は、16億5,594万円だった。

景品表示法の課徴金として、過去最高額である。

理由は、電気料金プランの見せ方だった。中国電力は家庭向けの「ぐっとずっと。プラン スマートコース」「ぐっとずっと。プラン シンプルコース」について、自由料金プランが規制料金プランより安くなるかのように、ウェブサイトやパンフレットで示していた。だが実際には、燃料費調整額の影響で、必ずしも安くなるとは限らなかった。価格が有利だと誤認させる ── 有利誤認(景表法5条2号)である。

課徴金は、対象となった売上の3%。対象売上は約551億円にのぼり、その3%が16億5,594万円という値札になった。

誇大な嘘があったわけではない。だが、料金の比べ方で消費者に「自由料金の方が安い」と誤認させれば、それは有利誤認という立派な不当表示にあたる。派手さのない表示に、16億円。これが、2016年に景表法へ導入された課徴金という制度の、10年目の姿だった。


3%の牙

課徴金が景表法に入ったのは、2016年4月1日のことだ。

きっかけは2013年、ホテルやレストランで相次いだメニュー偽装 ── 「芝海老」がバナメイエビ、「ビーフステーキ」が成形肉だった、あの食品表示問題である。措置命令(やめなさい、という行政処分)だけでは、不当表示で得た利益が手元に残る。やり得を許さないために、経済的な制裁=課徴金が、2014年の改正で導入された(詳細: 課徴金、2014年)。

仕組みは単純だ。不当表示の対象になった商品・サービスの売上額の3%。対象期間は最大3年。故意も過失も要らない。表示が優良誤認(5条1号)か有利誤認(5条2号)に当たれば、売上の3%が削られる。

景表法は1962年の制定以来、「やめなさい」としか言えない法律だった。2016年、初めて「払いなさい」と言える牙を持った。


件数の、山と谷

では、その牙は10年でどれだけ噛んだのか。消費者庁の統計から、課徴金納付命令の件数を並べてみる。

年度課徴金措置命令
2016127
20171950
20182046
20191740
20201533
20211541
20221741
20231244
2024726
2025510

(2025年度は令和8年2月28日時点の途中集計。課徴金は累計128件、措置命令は累計401件)

牙は、最初の数年が山だった。施行2年目の2017年に19件、2018年に20件。だがそこから坂を下る。2024年度は7件、2025年度は途中までで5件。

件数だけ見れば、課徴金は鈍ったように見える。だが、それは半分しか見ていない。


金額の、跳躍

件数が谷へ向かう一方で、1件あたりの金額は跳ね上がっていた。

景表法・課徴金の過去最高額は、13か月のあいだに3度、塗り替えられている。

命令事業者課徴金類型
2023年4月大幸薬品「クレベリン」6億744万円優良誤認
2024年3月メルセデス・ベンツ日本12億3,097万円優良誤認
2024年5月中国電力16億5,594万円有利誤認

2023年4月、大幸薬品が「クレベリン」の空間除菌表示で6億744万円を命じられた。空気中のウイルスや菌を除去できるとした表示に、合理的根拠がなかった。当時の過去最高である。

それを2024年3月、メルセデス・ベンツ日本が抜く。実際には有料オプションだった安全運転支援システムなどを、カタログで「標準装備」と表記していた ── 12億3,097万円。

わずか2か月後の2024年5月、中国電力が16億5,594万円で更新した。

2024年度の課徴金は、件数こそ7件。だがその中に、歴代1位と2位が並んでいる。牙は、減ったのではない。広く浅く噛む牙から、少数の大型案件に深く噛む牙へ ── 形を変えていた。


牙が、分かれた

なぜ件数は減ったのか。理由の一つが、2024年に景表法へ加わった新しい仕組みにある。

2024年10月、改正景表法が施行された(詳細: 景表法改正、2024年)。柱は三つ。繰り返し違反への課徴金1.5倍加算、優良誤認・有利誤認への直罰(100万円以下の罰金)、そして確約手続だ。

確約手続は、事業者が自主的に是正計画を出し、消費者庁が認定すれば、措置命令や課徴金に進まずに解決できる仕組み。米国やEUの同意命令に近い発想だ。

統計にも、その影が出ている。確約計画の認定は、2024年度に1件、2025年度に7件。導入初年度から立ち上がっている。罰する案件と、是正させる案件に、執行が枝分かれし始めた。

牙は、巨大化(大型課徴金)と、別の道具への分岐(確約=是正、直罰=刑事)── 二つの方向へ同時に動いていた。


牙が、届かない場所

ただし、この牙には最初から決められた射程がある。課徴金がかかるのは、優良誤認(5条1号)と有利誤認(5条2号)だけだ。

2023年に施行されたステマ告示(5条3号)は、課徴金の対象外である(詳細: ステマ規制、2023年)。だから、Google マップの口コミを割引で誘導した医療法人も、インフルエンサー投稿を自社サイトに転載した chocoZAP も、課徴金はゼロ。措置命令だけで終わっている。

同じことが、AI が作る偽広告にも当てはまる。なりすまし型のディープフェイク広告は、そもそも景表法の射程の外にあり(詳細: 景表法が届かない広告)、課徴金の牙はそこには届かない。

16億円を噛む牙と、1円も噛めない領域。課徴金の10年は、その射程の輪郭も、はっきりと描き出している。


「払いなさい」の重み

2016年、景表法は「払いなさい」と言える牙を、初めて持った。

10年後、その牙は件数では小さくなり、1件あたりでは16億円まで巨大化し、確約と直罰へ枝分かれし、そして告示3号の手前で止まっている。

中国電力の16億5,594万円は、料金プランの「比べ方」一つに付いた値札だった。誇大な嘘がなくても、見せ方が不当表示にあたれば、それだけの重みがかかる時代になった。

次にこの記録を破るのは、どの業種の、どんな「見せ方」だろうか。


FAQ

景品表示法の課徴金はいつ導入されましたか?

2014年の改正で導入され、2016年4月1日に施行されました。2013年のメニュー偽装問題を契機に、措置命令だけでは不当表示の「やり得」を防げないとして設けられた制度です。対象となる売上額の3%(対象期間は最大3年)を課し、対象は優良誤認(5条1号)と有利誤認(5条2号)です。

景品表示法の課徴金の過去最高額は?

2024年5月28日に消費者庁が中国電力に命じた16億5,594万円です。電気料金プランを規制料金より安いかのように示した有利誤認でした。次いで2024年3月のメルセデス・ベンツ日本(12億3,097万円、有料オプションを「標準装備」と表記した優良誤認)、2023年4月の大幸薬品「クレベリン」(6億744万円)と続きます。過去最高額は13か月で3度更新されました。

課徴金は売上のどれくらいですか?

不当表示の対象となった商品・サービスの売上額の3%です。対象期間は最長3年。中国電力の例では、対象売上 約551億円の3%が16億5,594万円になりました。故意・過失は課徴金の要件ではありません。

ステマ(5条3号)に課徴金はかかりますか?

いいえ。課徴金の対象は優良誤認(5条1号)と有利誤認(5条2号)のみで、ステマ告示(5条3号)は対象外です。そのため、ステマ違反は措置命令(と命令違反時の罰則)で運用され、課徴金は課されません。これは課徴金制度の射程の限界の一つです。

確約手続とは何ですか?

2024年10月施行の改正景表法で導入された制度です。事業者が自主的に是正計画を出し、消費者庁が認定すれば、措置命令や課徴金に進まずに解決できます。確約計画の認定は、2024年度に1件、2025年度に7件と、導入初年度から立ち上がっています。