2024年、消費者庁が課徴金や措置命令で裁いた広告は、同じ景表法でも、当たった条文がそれぞれ違った。
中国電力は、電気料金プランの「比べ方」で。メルセデス・ベンツ日本は、有料オプションを「標準装備」と書いた品質の見せ方で。chocoZAP(RIZAP)は、インフルエンサーの投稿を広告だと分からせなかったことで。
三つの広告は、景表法5条の1号・2号・3号という、別々の入口に当たっている。
景表法の不当表示には、この3つの入口がある。そして近年、その3つのどこにも入らない広告 ── 法の外側 ── が現れ始めた。このシリーズが辿ってきた事件を、その地図の上に置き直してみる。
第1号 ── 優良誤認(中身を、よく見せる)
優良誤認(5条1号)は、商品やサービスの品質・規格・内容を、実際よりも著しく優れていると見せる表示だ。効果、性能、原材料、装備 ── 「中身」をめぐる嘘がここに入る。
景表法の出発点もここだった。1962年、牛肉でない中身を「牛缶」と表示したニセ牛缶事件が、この法律を生んだ。中身を偽る、という最も古い不当表示である。
近年の代表例も、この類型に集まる。空気中のウイルスを除去できるとした大幸薬品の「クレベリン」、有料の安全装備を「標準装備」と表記したメルセデス・ベンツ日本 ── いずれも優良誤認で、課徴金の対象になった(詳細: 課徴金の10年)。効果をそれらしく見せ、注意書きで小さく打ち消す打消し表示の手口も、多くはこの1号をめぐる攻防だ。
優良誤認は、課徴金の対象である。
第2号 ── 有利誤認(条件を、有利に見せる)
有利誤認(5条2号)は、価格や数量、取引条件を、実際よりも有利だと見せる表示だ。中身ではなく、「条件」をめぐる誤認である。
景表法・課徴金の過去最高額も、この類型から出た。中国電力が電気料金プランを規制料金より安くなるかのように示した事案 ── 実際には燃料費調整で必ずしも安くなかった ── は有利誤認とされ、16億5,594万円の課徴金が課された(詳細: 課徴金の10年)。
嘘がなくても、「比べ方」一つで条件を有利に思わせれば、この2号に当たる。有利誤認も、課徴金の対象である。
第3号 ── 告示(広告だと、分からせない)
3つ目の入口は、少し性格が違う。
5条3号は、内閣総理大臣が告示で個別に指定する不当表示だ。2023年に施行されたステマ告示は、その代表である。ここで問われるのは、表示の中身が本当か嘘かではない。「それが広告(事業者の表示)だと、一般消費者に分かるか」── その一点だ(詳細: ステマ規制、2023年)。
中身が正しい口コミでも、事業者の関与を隠していれば違反になる。ここに至るまでには長い前史があった。芸能人ブログに同じ宣伝文が並んだペニーオークション事件(2012年)、アフィリエイトサイトの表示も広告主の表示だと示したブレインハーツ(2018年)。11年の蓄積が、2023年の告示に結実した。
ただし、この3号には大きな特徴がある。課徴金の対象外だ。だから、Google マップの口コミを割引で誘導した医療法人も、インフルエンサー投稿を自社サイトに転載した chocoZAP も、課徴金はゼロ。措置命令で運用される。
地図の外側 ── 景表法が届かない場所
3つの入口の、さらに外側がある。
著名人になりすまし、AI で合成した「本人」に投資を勧誘させるディープフェイク広告。これは1号でも2号でも3号でもない。広告主は詐欺グループで特定が難しく、問題の核心は商品の誤認ではなく「なりすまし」そのものだからだ。景表法の3つの入口は、どれもここには届かない(詳細: 景表法が届かない広告)。
解約させない UI 設計などの「ダークパターン」も、表示というより設計の問題で、特商法や消費者契約法が引き受ける領域に近い。
景表法は「事業者の不当な表示」を裁く法だ。その定義の外で起きる誤導は、刑事罰やプラットフォーム規制、別の法律へと渡されていく。
一枚の早見表
| 類型 | 問われるもの | 課徴金 | 代表事例 |
|---|---|---|---|
| 5条1号 優良誤認 | 品質・内容・効果 | 対象 | クレベリン / メルセデス |
| 5条2号 有利誤認 | 価格・取引条件 | 対象 | 中国電力 |
| 5条3号 告示(ステマ) | 広告だと分かるか | 対象外 | 祐真会 / chocoZAP |
| 地図の外 | なりすまし・AI生成・設計 | 景表法の外 | ディープフェイク投資広告 |
62年で、入口は増えた
景表法は1962年、優良誤認と有利誤認という2つの入口で始まった。「中身」と「条件」── どちらも、表示が本当かどうかを問うものだった。
2023年、告示3号という3つ目の入口が加わる。これは表示の真偽ではなく、「広告だと分かるか」を問う、性格の異なる入口だった。射程は、確かに広がった。
だが同じころ、3つのどの入口にも入らない誤導 ── なりすましと AI ── が、地図の外で増え始めた。
景表法が62年間守ってきた問いは、一つだ。消費者は、本当のことを知って選べているか。その問いを、いまは3つの入口と、外側を引き受ける別の法律たちとで、分担している。
シリーズ全体を時系列で辿るなら、景表法90年の地図へ。
FAQ
景品表示法の不当表示にはどんな種類がありますか?
大きく3類型あります。優良誤認(5条1号、品質・内容を実際より優れて見せる)、有利誤認(5条2号、価格・取引条件を有利に見せる)、そして告示で指定される不当表示(5条3号、ステマなど)です。1号と2号は表示の真偽を、3号(ステマ告示)は「広告だと分かるか」を問います。
優良誤認と有利誤認の違いは?
優良誤認は「中身」(品質・効果・規格・内容)を実際より優れて見せる表示、有利誤認は「条件」(価格・数量・取引条件)を実際より有利に見せる表示です。たとえば「ウイルスを除去」は優良誤認、「他より安い」が実際は安くないなら有利誤認です。いずれも課徴金の対象です。
ステマはどの類型で、なぜ課徴金がないのですか?
ステマは5条3号の告示で指定された不当表示です。課徴金の対象は1号(優良誤認)と2号(有利誤認)に限られ、3号告示は対象外と定められているため、ステマ違反は措置命令(と命令違反時の罰則)で運用され、課徴金は課されません。
自社の広告がどの類型に当たるか分からないときは?
おおまかには、中身や効果を盛れば優良誤認(1号)、価格や条件を盛れば有利誤認(2号)、広告であることを隠せばステマ(3号)です。なお、なりすましや AI 生成の偽広告、解約妨害のような設計上の問題は、景表法の射程の外で、別の法律が扱う場合があります。