景表法 読了 7 分

おまけから AI まで ── 景表法90年の地図(1932–2026)

1932年のベルリンで禁じられた「おまけ」と、2024年の東京で16億円を課された「料金の見せ方」は、同じ一本の線の上にある。

景品表示法とその源流をめぐる90年を、一枚の地図にした。本シリーズが辿ってきた画期を時系列で並べ、そこに見える「重心」「制裁」「射程」の三つの動きを読む。どの記事からでも、ここを起点に辿れる。

1932年のベルリンで、ある法律が「おまけ」を禁じた。景品で客を釣る競争が行き過ぎたからだ。

2024年の東京で、ある電力会社が16億円を課された。料金プランの「比べ方」が、消費者に有利だと誤認させたからだ。

92年。国も、時代も、技術も違う。だが二つは、同じ一本の線の上にある。その線が問い続けてきたのは、たった一つのことだ ── 消費者は、本当のことを知って選べているか。

このシリーズは、その線を辿ってきた。ここでは全体を一枚の地図にして、90年を一望する。


第一幕 ── 景品の時代

景品表示法は、最初から「表示」の法律だったわけではない。出発点は、景品 ── おまけと懸賞の過熱だった。

戦後、みそ屋もしょうゆ屋も百貨店も、客寄せの景品競争に走った。やがて1962年、中身を偽った「ニセ牛缶」が引き金となり、景品表示法が生まれる。景品(おまけ)と表示(中身)の二本柱は、このとき形を得た。


第二幕 ── 表示の時代へ

二本柱のうち、重心はやがて「表示」へ移っていく。景品の過熱が落ち着く一方で、品質や価格を偽る不当表示が、規制の主戦場になった。

2009年、消費者庁の発足で景表法は所管を移し、執行体制が変わる。2016年には、初めて「払いなさい」と言える牙 ── 課徴金が加わった。打消し表示やアフィリエイトといった、新しい誤認の形も次々と裁かれていく。


第三幕 ── デジタルと AI の時代

2020年代、誤認の舞台は SNS と AI に移る。

2023年のステマ規制は、「表示の真偽」ではなく「広告だと分かるか」を問う、新しい不当表示を加えた。2024年の改正は制裁を一段強め、課徴金は同じ年に過去最高を更新し続けた。そしてその先で、なりすましと生成 AI が、景表法の射程そのものを問い始めている。

なお、この90年を貫く横軸として、業界の自主規制とカルテルの境目という問題もある。公正競争規約のような自主ルールは、一歩間違えば独占禁止法上のカルテルになる ── 規制と自主規制のあいだの、消えない緊張だ。


地図に見える、三つの動き

90年を一望すると、点が線になり、三つの動きが浮かぶ。

重心の移動 ── 景品から、表示、そして設計へ。 法の名は「景品"表示"法」だが、出発は景品(おまけ・懸賞)の規制だった。戦後、重心は表示(中身の誤認)へ移り、デジタル時代には、なりすましや UI 設計といった「表示の手前」にまで論点が広がっている。

制裁の進化 ── やめなさい、払いなさい、そして。 1962年の景表法は「やめなさい」(措置命令)としか言えなかった。2016年に「払いなさい」(課徴金)を得て、2024年には確約(是正)と直罰(刑事)へ枝分かれした(詳細: 課徴金の10年)。罰の道具立ては、60年かけて厚くなった。

射程の拡大と、その縁。 規制は当初、表示の真偽(優良誤認・有利誤認)を問うものだった。2023年のステマ告示は、真偽を問わず「広告だと分かるか」へ射程を広げた(詳細: ステマ規制)。だが、なりすましや AI 生成の偽広告は、その射程の外側にあり、刑事罰やプラットフォーム規制が引き受けている(詳細: 景表法が届かない広告)。射程は広がり続けたが、縁もまた、はっきりしてきた。


翌朝は、まだ続く

このシリーズで繰り返してきた言葉がある。法律は、いつも勝者が出た翌朝に作られる、と。

ニセ牛缶の翌朝に景表法ができ、ペニーオークションの11年後にステマ規制が施行され、メニュー偽装の翌朝に課徴金が入った。90年の地図は、そうした「翌朝」の連なりだった。

そして次の勝者 ── 他人の顔を借り、一度も発さなかった言葉を喋らせる者は、もう現れている。次の翌朝が、どんな法律を呼ぶのかは、まだ書かれていない。


FAQ

景品表示法はいつできましたか?

1962年(昭和37年)に制定されました。戦後の景品競争の過熱と、中身を偽った食品偽装(ニセ牛缶事件など)を背景に、過大な景品と不当な表示の二つを規制する法律として生まれました。当初は公正取引委員会が所管し、2009年に消費者庁へ移管されています。

景表法の「景品」と「表示」の違いは?

景品規制は、おまけや懸賞の金額が過大にならないよう上限を定めるものです。表示規制は、品質を実際より優れて見せる優良誤認(5条1号)、価格や取引条件を有利に見せる有利誤認(5条2号)などの不当表示を禁じます。シリーズの出発点は景品規制で、戦後に重心が表示規制へ移りました。

景品表示法はどのように強化されてきましたか?

主な画期は、2009年の消費者庁への移管、2016年の課徴金制度の施行、2023年のステマ告示(5条3号)、2024年の改正(課徴金1.5倍加算・直罰・確約手続)です。措置命令だけだった制裁が、課徴金、そして刑事罰や是正手続へと厚くなってきました。

景表法で AI のなりすまし広告は裁けますか?

なりすまし型の偽広告は、広告主(詐欺グループ)の特定が難しく、商品の優良誤認とも異なるため、景表法では手が届きにくいのが実態です。刑事罰(私電磁的記録文書等偽造・行使罪の新設)や、情報流通プラットフォーム対処法によるプラットフォーム規制が引き受けています(詳細は本シリーズの「景表法が届かない広告」を参照)。