薬機法 読了 22 分

流通・供給・遠隔の3つの試練 ── 2025年薬機法改正・後編

2017年1月17日、奈良のサン薬局で偽造ハーボニーが発見された。「対面販売なら安全」のはずが、対面の薬局で起きた。

それから8年、薬機法は3つの試練 (偽造、ジェネリック供給崩壊、メディカルダイエット) を受け、2025年改正で「責任者法定化、届出義務、トレーサビリティ」による新しい監督体制に移行する。

目次 (9 章)
  1. 偽造ハーボニーの全容 ── 14本のボトル
  2. 対面の盲点 ── 偽造は薬局で流通した
  3. 小林化工と日医工 ── ジェネリック供給崩壊
  4. 薬価底値が呼び込んだもの ── 後発品80%目標の代償
  5. メディカルダイエット ── オンライン処方の副作用
  6. 2025年改正の答え ── 4本柱
  7. 3つの試練と、新しい監督体制
  8. FAQ
  9. 参考文献

2017年1月17日。

奈良市の調剤薬局「サン薬局平松店」(運営: 関西メディコ) で、ある C型肝炎患者がハーボニー配合錠の瓶を覗き込み、薬剤師に申し出た。

前と錠剤の色が違う」。

薬剤師は即座にギリアド・サイエンシズに連絡。同日、厚生労働省は「医薬品の適正な流通の確保に関する通知」を発出した。

調査の結果、偽造品は 奈良5本 + 東京9本 = 計14本が流通していた。1錠 5万4,796.90円、1コース 670万円超の C型肝炎治癒薬が、偽造の標的になっていた。

そして衝撃的だったのは、この偽造品が「対面販売」の薬局で流通していたことだ。前編で見た「対面なら安全」という制度設計が、その制度の中心 ── 対面の薬局店頭で ── 崩れた瞬間だった。

それから 8年。薬機法は 2025年改正で、流通・供給・遠隔という 販売制度の外側を整理する。

これは GuidelineChecker のコラム 40本目、薬機法シリーズの 17本目である。2019年改正 (課徴金)2022年改正 (緊急承認)、そして 2025年改正・前編 ネット販売の16年 と続いた薬機法現代化シリーズの 4本目、2025年改正の 後編。前編が 販売制度 (対面販売義務の解除) を扱ったのに対し、後編は 流通・供給・遠隔 ── 「対面でも防げなかったもの」を辿る。


偽造ハーボニーの全容 ── 14本のボトル

ハーボニー (一般名 ledipasvir/sofosbuvir 合剤) は、米ギリアド・サイエンシズが開発した C型肝炎治癒薬。1錠 5万4,796.90円、1コース28錠で 670万円超ハーボニー、2015年 で扱った通り、それまで治らなかった病気を 12週で治す薬として登場した。

そして、超高額薬は 偽造の標的になった。

項目内容
発覚日2017年1月17日
発見薬局サン薬局平松店 (奈良市、関西メディコ運営)
流通本数奈良5本 + 東京9本 = 計14本
偽造品の中身 (14本全体で混在)ビタミン剤・漢方薬ソバルディ錠 (別のC型肝炎薬) などが詰められていた
患者投与なし (患者が異変に気付き未然防止)
健康被害ゼロ

患者が「前と錠剤の色が違う」と気付かなければ、偽造品が体内に入っていた可能性があった。

流通ルート

捜査で判明した流通経路は、こうだった。

段階主体
1. 起点広島県の無職夫婦 加瀬敬幸 (43歳)・芳美 (49歳)
↓ 2017年1月4日、1本 80-100万円で 2本売却
2. 現金問屋東京・千代田区「エール薬品」(後に解散)
3. 中間卸東京の複数の医薬品卸
4. 中間卸大阪の医薬品卸
5. 着地関西メディコ (サン薬局チェーン)

加瀬夫婦は別件 (覚醒剤取締法違反) で既に起訴されていた人物。2018年1月26日に医薬品医療機器法違反で逮捕状、2月7日に逮捕された。

「現金問屋」という穴

問題の核心は、「現金問屋」と呼ばれる業態だった。

医療機関の余剰在庫を現金で買い取り、別の卸や薬局に転売する半グレーゾーンの卸。正規のメーカー流通網 (スズケン・東邦薬品等) と並行して存在し、価格が 大手より2-3万円安かった。関西メディコは 2016年5月から、この非正規ルートからの仕入れを始めていた。

「対面販売の薬局」が、安さを理由に 偽造品の流通網に接続していた ── これが偽造ハーボニー事件の構造だった。


対面の盲点 ── 偽造は薬局で流通した

前編 (ネット販売の16年) で見たように、厚労省は 2009年以降、「対面販売による安全性確保」を理由にネット販売を制限してきた。

その思想の前提は ── 対面ならば、薬剤師が薬を確認できる。だから安全である

偽造ハーボニー事件は、この前提を 真正面から否定した

仮定事件で明らかになった現実
対面なら薬剤師が確認するサン薬局の薬剤師は偽造品を 見抜けなかった
対面なら卸ルートが追える現金問屋を介すと卸ルートは追えない
対面なら安全性が確保される超高額薬は対面販売でも偽造の標的になる

患者が偶然「色の違い」に気付かなければ、偽造品が体内に入っていた可能性がある ── これは「対面販売の薬局が、最後の安全網になっていなかった」事実を示す。

制度対応 (2017-2024年)

事件後、厚労省・関係省庁は段階的に流通管理を強化していった。

対応
2017年3月サン薬局平松店・平群店に薬局初の 業務停止5日命令、ギリアドはブリスター包装に切り替え
2017-2018年卸取引の規制強化議論、医薬品流通ガイドライン改定
2018年2月加瀬夫婦 逮捕、卸ライセンス制度の見直し
2024年医薬品の販売制度に関する検討会で 流通管理・偽造防止が議論
2025年薬監証明制度を法制化 (改正薬機法、後述)

ネット販売の解禁が議論されていたのと並行して、対面販売の盲点が浮かび上がっていた。


小林化工と日医工 ── ジェネリック供給崩壊

2020年12月。福井県あわら市の 小林化工で、抗真菌剤 イトラコナゾール錠50「MEEK」睡眠導入剤リルマザホンが混入した事件が発覚した。

問題は単なる製造ミスではなかった。

項目内容
流通量1ロット 929箱
処方患者344例
健康被害245例 (ふらつき・意識消失・自動車事故・転倒)
死亡2例
業務停止116日 (2021年2月9日福井県命令、薬機法上 過去最長)

なぜ睡眠導入剤が抗真菌剤に混入したのか。意図的混入ではない。2020年6月24日、後混合工程で夜勤作業者がリルマザホン488gをイトラコナゾールと取り違えて投入した ── 両者とも白色粉末で、バーコード読取とダブルチェックが省略されていた。

問題の核心は、品質試験がリルマザホンを検出する設計ではなかったこと。HPLC 試験はイトラコナゾール含量 (95-105%) を測るためのもので、未知異物の同定項目はない。厚労省は後に「品質試験において取違いを検知できない体制であった」と公式に明示している。

ただし、検出のチャンスは一度あった。初回含量試験で 92.1% という規格逸脱が出ていた。試験担当者はこれを「ラボエラー」と判断し、SOP と異なる方法で 再試験 → 97.4%で「適合」と判定。HPLC クロマトグラム上の異常ピーク (リルマザホン由来) も「対象外」として無視された。

加えて、製造指図書には承認書通りの数値を記載、実際は 現場フロー (裏マニュアル) で別量を秤量、秤量印刷は 分銅で偽装。この種の 承認外工程と虚偽記録は、同社製品の8割に及び、経営陣も黙認していた。

つまり「意図的混入」ではなく、取り違え + 検出設計の不備 + ラボエラー判定 + SOP違反再試験 + 記録改ざん── 複合的な構造の総崩壊だった。

そして、これは始まりに過ぎなかった。

日医工 ── 大手が10年継続した不正

2021年3月3日、富山県は後発薬最大手の 日医工 (富山県滑川市) に行政処分を出した。

項目内容
業務停止32日 (3/5-4/5) + 製造販売業務停止 24日 (3/5-28)
自主回収75品目
不正の内容承認外工程で製造、品質試験不適合品を 再粉砕・再試験で適合品扱い
不正継続期間約10年 (2011年頃から)
田村友一 社長3か月無報酬

再粉砕・再試験で適合品扱い」のスキームは具体的にこうだ。製造ロットが品質試験 (溶出・含量) で不合格になると、本来は廃棄か承認書上の規定再加工しか許されない。だが日医工は 不合格品を粉砕して打錠し直し、再試験で合格させた。粉砕で粒子サイズや圧縮条件が変わり、溶出特性が改善するため通る。

問題は明快で、承認書には「再粉砕」工程が記載されていない。承認された製造方法と違うやり方で作りながら、製造記録には「初回試験で合格」と虚偽記載し出荷していた ── これが「承認外工程」の中身だ。

「10年継続した品質不正」が、後発薬3強の一角で起きていた。

連鎖と現状

その後、長生堂製薬、辰巳化学、共和薬品など ジェネリック大手7社以上が業務停止または出荷制限。2025年初頭時点で:

「薬を処方しても、薬局にない」── これが 2021年以降の日常になった。


薬価底値が呼び込んだもの ── 後発品80%目標の代償

なぜ、これほどの不正が連鎖したのか。背景に 薬価制度の構造的歪みがあった。

後発品80%目標

政府は 2017-2020年度の医療費抑制策として、後発品の数量シェア 80%を目標に掲げた。

時期後発品シェア
2010年約 20%
2017年65.8%
2020年78.3%
2024年3月82.75% (目標達成)

数量シェアは伸びた。だが、その裏で 製造現場の余力が奪われていった。

薬価制度の圧力

日本の薬価制度 で扱った通り、後発品の薬価は:

加えて、ジェネリックメーカーは 180社以上が乱立。少量多品目生産で製造ラインの稼働率が下がり、品質管理体制が手薄になった。

構造的要因

要因内容
少量多品目生産50品目以上扱う企業が40社、製造切り替えのロスが大きい
製造ライン余力なし余剰能力ゼロで、1社のトラブルが業界全体に波及
設備投資余力なし薬価底値で利益率が低く、設備更新が後回し
人員不足・業務多忙コンプライアンス軽視の温床

「安く作らせる」政策が、作れなくなる結果を生んだ。これがジェネリック供給崩壊の構造だった。

政府支援も動き出した。2024年度補正予算 70億円 (後発薬産業構造改革)、緊急増産支援20億円。そして 2025年改正で 供給体制管理責任者の設置義務化 (後述)。


メディカルダイエット ── オンライン処方の副作用

2022年4月、薬機法改正でオンライン診療が 初診を含めて恒久化された。COVID 時限解禁 (2020年4月) から 2年、本格運用へ移行した。

ここで 意図せざる副作用が生まれる。

GLP-1 適応外処方の拡大

舞台になったのは、GLP-1受容体作動薬 ── 2型糖尿病治療薬として開発された注射剤・経口薬。

商品名一般名開発企業
オゼンピックsemaglutideノボノルディスク
リベルサスsemaglutide (経口)
サクセンダliraglutide
ウゴービsemaglutide (肥満症適応)
マンジャロtirzepatide (GIP/GLP-1)イーライリリー

これらは本来、2型糖尿病または 重度肥満症 (BMI 35以上等) のための薬。だが、副次的な体重減少効果が知られていた。

オンラインクリニックの参入

オンライン診療が解禁されると、自由診療のオンラインクリニックが続々と参入した。DMMオンラインクリニック、CLINIC FOR、TOP OASIS、Tクリニックなどが「メディカルダイエット」名目で GLP-1 を オフラベル処方し始めた。

オフラベル処方とは、承認された適応症外への処方のこと。医師の裁量で可能だが、保険適用外 (自由診療) となり、適応症外での安全性・有効性データは限定的になる。

問題内容
体重要件BMI 35未満の健常者にも処方
初診のみ継続管理なし、副作用対応不十分
適応外糖尿病・重度肥満以外への処方
供給逼迫糖尿病患者用がダイエット利用に流出し、品薄化

当局の警告

問題の拡大を受けて、関係機関が相次いで警告を発出した。

日付主体内容
2023年9月20日厚労省ウェブサイト監視指導強化方針
2023年11月28日日本糖尿病学会GLP-1 適応外使用に関する見解
2023年12月20日国民生活センター痩身目的オンライン診療トラブル注意喚起
2024年1月29日厚労省自治体への注意喚起再徹底要請
2024年10月18日PMDAノボノルディスク等と連名で適応外使用警告

それでもオンラインダイエット薬の処方は続き、糖尿病患者向け GLP-1 は 限定出荷が常態化した。

遠隔診療の解禁」が、「糖尿病患者の薬不足」を生んだ ── これは制度設計者が予測していなかった連鎖だった。


2025年改正の答え ── 4本柱

2025年5月14日、参議院本会議で 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号) が全会一致で可決成立。5月21日公布。

前編 で扱った販売制度 (要指導医薬品のオンライン解禁) は、改正の 1本目にすぎない。実は改正は 4本柱で構成されていた。

主題対応する課題
1品質・安全性確保偽造ハーボニー (流通管理) + ジェネリック品質不正
2安定供給ジェネリック供給崩壊
3創薬力強化ドラッグロス・希少疾患薬
4薬局機能強化前編の販売制度 + 遠隔販売 + 濫用防止

1. 品質・安全性確保 (偽造防止と品質管理)

改正項目条文
品質保証責任者・安全管理責任者の設置義務改正法 17条6項
役員変更命令制度72条の8
薬監証明制度の法制化 (個人輸入の確認制度)(告示から法律へ格上げ)

小林化工・日医工事件のような 経営陣による不正の黙認を防ぐため、責任者の 法定化が行われた。違反企業の役員は、厚労相の命令で 変更できる。

2. 安定供給 (ジェネリック不足への対策)

改正項目条文
供給体制管理責任者の設置義務18条の2の2
出荷停止時の事前届出義務18条の3・4項
供給確保医薬品の指定、増産指示(新設)

「供給を止める前に、国に届け出る」── これが新ルール。突然の出荷停止で医療現場が混乱する事態を防ぐ設計。

3. 創薬力強化 (ドラッグロス対策)

ここまでの3つの試練 (偽造・供給・遠隔) とは 別の流れ に対する手当てが、3本目の柱だ。

ドラッグロス ── 欧米で承認された新薬が日本で承認されない問題。日本の薬価制度 で扱った通り、2023年時点で 約 143品目が日本未承認、うち 86品目はメーカーが日本申請の予定すらない。日本市場の規模、薬価制度、規制プロセスの遅さが原因。

加えて、希少疾患薬・小児用医薬品 ── 採算性の低い領域 ── の開発も足踏みしていた。これに応えるのが本柱だ。

改正項目条文
条件付承認制度の対象拡大14条の2の2
小児用医薬品開発努力義務14条の8の2
後発医薬品製造基盤整備基金(新設)

希少疾患・重篤疾患治療薬で、Phase 3 完了前でも 条件付き承認を出せる範囲が広がった。海外メーカーの日本上市を促す設計だ。

4. 薬局機能強化 (遠隔販売と濫用防止)

改正項目条文
調剤業務の一部外部委託9条の5
遠隔販売制度29条の5〜10
処方箋なし医療用医薬品販売の原則禁止36条の3第2項
指定濫用防止医薬品の販売規制36条の11第1項

前編で扱った要指導医薬品のオンライン解禁に加え、処方箋なし医療用医薬品(医師の処方が必要な薬を処方箋なしで売る、メディカルダイエットの一部実態) が 原則禁止された。

施行スケジュール

時期施行内容
公布後 6か月以内出荷時届出制度、協力要請
公布後 1年以内濫用防止医薬品販売制限、条件付承認拡大
公布後 2年以内責任者設置義務、調剤外部委託、遠隔販売
公布後 3年以内製造方法変更手続合理化

3つの試練と、新しい監督体制

序文に戻る。

2017年1月17日、奈良の薬局店頭で「前と錠剤の色が違う」と患者が気付かなければ、偽造ハーボニーは体内に入っていた。それは「対面販売なら安全」という制度設計の前提が、対面の現場で 崩れた瞬間だった。

その後 8年、薬機法は 3つの試練を受けた。

試練教訓
偽造ハーボニー (2017)対面販売でも、現金問屋経由で偽造は流通する
小林化工・日医工 (2020-2021)薬価を下げすぎると、製造現場が壊れる
メディカルダイエット (2022-)オンライン診療を解禁すると、適応外処方が拡大する

これら3つの試練に応えるのが、2025年改正 4本柱のうち3本だった。

残り1本の柱 「創薬力強化」は、3つの試練とは別の流れ ── 欧米承認薬が日本に届かない ドラッグロス、希少疾患・小児用医薬品の不足 ── への対策である。条件付承認制度の対象拡大小児用医薬品開発努力義務で、上市を促す設計が組まれた。

前編 で扱った販売制度は、これらの中の 1つ ── 「対面販売義務の解除」── にすぎない。実は 2025年改正は、販売制度より遥かに広い、薬機法の総合的な現代化だった。

そして「効くなら、証明せよ」(売薬法) で始まった薬機法は、ここまでで以下の節目を経た。

節目キーフレーズ
売薬法 1914年効くなら、証明せよ
サリドマイド・スモン市販前審査と市販後監視の起源
薬機法 2014年iPS細胞が動かした法律名
薬機法 2019年改正論文は広告ではない、しかし牙は立つ
薬機法 2022年改正証明は遅らせても、放棄はしない
薬機法 2025年改正・前編対面販売義務は、16年で解かれた
本記事 (薬機法 2025年改正・後編)対面で防げず、製造で壊れ、遠隔で漏れる

対面で安全」「市場で供給維持」「医師判断は適正」── 3つの前提が、それぞれの場面で崩れた。代わりに登場するのは、責任者の法定化、届出義務、トレーサビリティによる「新しい監督体制」だ。薬機法は、それで医薬品流通の現代を支えようとしている。


FAQ

偽造ハーボニー事件で患者は薬を飲んだのですか?

いいえ、患者投与には至りませんでした。2017年1月17日、奈良市のサン薬局平松店で、ある C型肝炎患者が瓶を覗き込み「前と錠剤の色が違う」と薬剤師に申し出たことで発覚。薬剤師がギリアド・サイエンシズに連絡し、厚労省が同日に「医薬品の適正な流通の確保に関する通知」を発出しました。患者の偶然の気付きがなければ、偽造品が体内に入っていた可能性があります。健康被害はゼロでしたが、患者の観察力に偶発的に救われた事件です。

「現金問屋」とは何ですか?

医療機関の余剰在庫を現金で買い取り、別の卸や薬局に転売する半グレーゾーンの卸業者です。正規のメーカー流通網 (スズケン・東邦薬品等) と並行して存在し、価格が大手より 2-3万円安いため、コスト意識の高い薬局が利用していました。偽造ハーボニー事件では、東京・千代田区の「エール薬品」(後に解散) が現金問屋として機能し、加瀬夫婦から偽造品を仕入れ、東京の複数卸→大阪の卸→奈良の関西メディコへと流通させました。「対面販売の薬局」が安さを理由に非正規ルートに接続していた、というのが事件の構造です。

小林化工事件と日医工事件は別の事件ですか?

別事件ですが、構造的には同じ「ジェネリック品質不正」の連鎖です。小林化工 (福井県あわら市) は 2020年12月、抗真菌剤に睡眠導入剤リルマザホンが混入し、患者245例に健康被害、死亡2例。業務停止 116日 (薬機法上最長)。日医工 (富山県滑川市) は 2021年3月、承認外工程での製造と品質試験データ改ざんが 約10年継続していたことが発覚し、業務停止32日 + 自主回収75品目。両事件とも経営陣が不正を黙認していた点が共通します。その後、長生堂製薬、辰巳化学、共和薬品など 7社以上に連鎖し、2025年初頭時点で全医薬品の約2割が出荷調整・供給停止状態になっています。

なぜジェネリック供給不足が起きたのですか?

薬価制度の構造的歪みが背景です。政府の 後発品80%目標 (2017-2020年度) が達成された (2024年3月時点 82.75%) 一方、後発品の薬価は先発品の30-50%から開始し毎年改定で引き下げられるため、薬価が製造原価を下回る品目が頻発。さらに 180社以上が乱立し少量多品目生産で製造ラインの稼働率が低下、品質管理体制が手薄になりました。「安く作らせる」政策が、結果的に「作れなくなる」状況を生んだ ── これが供給崩壊の核心です。政府は 2024年度補正予算で 70億円を投入し産業構造改革に着手していますが、根本解決には時間がかかります。

メディカルダイエットの何が問題ですか?

本来 2型糖尿病治療薬である GLP-1受容体作動薬 (オゼンピック、リベルサス、サクセンダ、ウゴービ、マンジャロ等) を、肥満治療目的で 適応外処方することが問題です。オンライン診療の初診恒久化 (2022年4月) で参入したオンラインクリニック (DMMオンラインクリニック、CLINIC FOR等) が「メディカルダイエット」名目で BMI 35未満の健常者にも処方し、(1)副作用対応不十分、(2)継続管理なし、(3)糖尿病患者向け薬の品薄化 ── という問題を生みました。日本糖尿病学会 (2023年11月28日)、PMDA (2024年10月18日) が警告を発出。2025年改正で 処方箋なし医療用医薬品販売の原則禁止 が盛り込まれました。

2025年改正は何を変えたのですか?

4本柱で構成されます。(1) 品質・安全性確保: 品質保証責任者・安全管理責任者の設置義務 (改正法17条6項)、役員変更命令制度 (72条の8)、薬監証明制度の法制化。(2) 安定供給: 供給体制管理責任者の設置 (18条の2の2)、出荷停止時の事前届出義務 (18条の3・4項)、供給確保医薬品の指定。(3) 創薬力強化: 条件付承認制度の対象拡大 (14条の2の2)、小児用医薬品開発努力義務 (14条の8の2)、後発医薬品製造基盤整備基金。(4) 薬局機能強化: 調剤業務一部外部委託 (9条の5)、遠隔販売制度 (29条の5〜10)、処方箋なし医療用医薬品販売の原則禁止 (36条の3第2項)、指定濫用防止医薬品の販売規制 (36条の11第1項)。施行は公布後 6か月〜3年以内で段階的に進みます。

「薬監証明制度」とは何ですか?

医師や個人が医薬品を海外から輸入する際、税関で「薬機法上問題ない品目である」と証明するための制度です。従来は厚労省告示に基づく行政運用でしたが、2025年改正で 法律本則の条文として明文化されました。背景には、偽造ハーボニー事件のような 正規流通網を逸脱した医薬品流通を取り締まる必要があり、輸入時点での確認制度を法的根拠のあるものに格上げした、という意図があります。個人輸入される未承認医薬品やオンラインで購入される海外薬の流通管理を強化する狙いです。